【寄稿】さようならトシさん、やすらかに

(c) Ruri Grant

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ncv_news2018年2月中旬。ダーラム市内の「バサン」レストランの調理長を務めておられた坂巻敏生さん(Chef Toshio Sakamaki、以下トシさん)の思いがけない訃報をお受け取りしました。

52歳、急病によるあまりにも早い死でした。

私が トシさんに初めてお会いしたのは、バサンがオープンした2015年の1月のこと。

土地開発による目覚ましい発展を続けるダーラム・ダウンタウンに日本食レストランが新たに建造されると新聞で読み、オープンしてすぐにお寿司を食べに行ったのです。

すぐ近くには複合商業施設のアメリカン・タバコキャンパス、地元民が熱烈に愛するメジャーリーグチーム“ダーラム・ブルズ”の本拠地球場があります。2012年に松井秀喜元選手も籍を置いていたことで知られるチームです。

東京で 「菊寿司」を経営するお父上の姿を見て育ったトシさんは、海外でも自分の腕を試してみたいと日本を飛び出し、ニューヨークの名店「初花」をはじめ、カリフォルニアの数々の有名店で着々とキャリアを積み、数年前、トライアングルエリアでレストランビジネスを展開する企業からのヘッドハンティングにより州都ラーレーヘ引っ越してこられました。

広々と明るく開放的なバサンのオープンキッチンは、早い段階からトシさんが設計に関わっていた賜物です。並々ならぬ期待と情熱を注ぎ込んでおられたのでしょう。

ユーチューブに、カリフォルニア時代のトシさんの動画があります。

本当に楽しそうに、生き生きとお仕事されているご様子が伝わって来ますよね。

サービス精神旺盛だったトシさん。

いつもにこやかに迎えてくださり、「お客さんの喜ぶ顔を見るために、やれることは何でもしますよ!それが私の仕事ですからね!」とハキハキとお話ししていたトシさんの笑顔を見たのは、つい昨日のことのようです。

築地直送の食材を用いて丁寧に握られたお寿司の数々、メニューにないお料理やお惣菜、日本酒に合う気の利いた肴をさりげなくすっと出して下さるトシさんの気遣いはいつも嬉しく、と同時にそのレパートリーの豊かさ、技量や盛り付けの美しさにも毎回驚かされたものでした。

そういえば、商工会(Triangle Japanese Business Association) 主催の2017年トライアングル地区新年会の仕出し弁当もトシさんが一手に引き受けてくださったものです。200人分の筑前煮、鯖の味噌煮、一口蕎麦、ちらし寿司、太巻きをいとも簡単に「慣れていますから大丈夫ですよ!問題ありません!」と即答で引き受けてくださり、当日は大量のパッケージを会場まで自ら配達してくださいました。実行委員一同、トシさんに心から感謝したのは言うまでもありません。

お店でのトシさんの企画による様々なイベントも好評で、なかでも私の印象に強く残っているのは、この辺りでは入手困難なクロマグロを丸ごと一匹解体しながらのディナー・トークショー“クロマグロと日本酒の夕べ、5コースディナー” です。

出席者の前で鮮やかにすいすいと捌き、各部位(大トロ、中トロ、赤身、炙り、漬け)の握りを頂ける贅沢な一皿を始め、前菜からデザートまでの5皿全て、批評家を含む全出席者から高評価を得ました。コースの献立を一所懸命に考え、心を込めて調理されたのであろうというのは誰の目にも明白でした。

日本食の普及に努めていたトシさんは、アメリカ西海岸の情報ウェブサイトの取材に協力して家庭料理のレシピを 公開したり、“The World’s Best Asian Noodle Recipes: 125 Great Recipes from Top Chefs” (トップシェフによるアジアの麺料理レシピ)という書籍で取り上げられたりと、お店の外でも一料理人として大変活躍されていました。

先日、東京から急遽駆けつけたトシさんのお兄様御夫妻にUmstead Hotelにて面会する機会がありましたが、アパートには、料理に関する資料や手書きのノートブックが所狭しと積まれていたそうです。

最後の里帰りとなった昨年の暮れには、お母様のご実家がある秋田県にも訪れ、親戚中の包丁を数日かけて全て綺麗に研いであげたというエピソードをお聞きし、トシさんらしいなと涙が出てしまいました。

バサンでのトシさんのお寿司、お料理の一部は、当ウェブサイト内「ダンケ&富士子 グルメ探訪記」の過去記事からご覧になれます。

(22)Basan バサン
(23)ダーラムBasanのお料理編

トシさん、これまでどうもありがとうございました。

ご冥福を心からお祈りいたします。

Author: Ruri Grant

ニューヨークシティからノースカロライナへ越して来てもうすぐ10年(早い!)、この間のトライアングルエリアの成長を目の当たりにしてきました。 初めは戸惑う事もありましたが、世界中から様々な国の人々が集まる土地柄と南部の人々のゆるりとした優しさ、山にも海にもアクセスし易く、緑に囲まれた生活が出来るこの小ぢんまりした不思議な町が大好きになってきました。 趣味はクラシック音楽、読書、料理。

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